「Oral Design International Symposium MADRID 2015」開催
水溜秀彦 (歯科技工士・Hadent America Inc.)
●はじめに
さる2015年9月16日 (水)~19日 (土)までの4日間にわたり、「Oral Design International Symposium MADRID 2015」がスペインの首都マドリッドで開催された(Oral Design主催、Willi Gellerファウンダー)。このシンポジウムは2年に1回開かれるようで、前回はイタリアのリミニにて行われた。今回の目玉は、なんといっても4人の日本人スピーカー(Mr. Naoki Aiba, Mr. Tetsuro Kubo, Mr. Jungo Endo, Mr. Luke Hasegawa) が発表することであり、世界各国から選ばれた17人のスピーカーのうち4人が日本人とは、とても誇らしいことである。私がこのOral Designを知ったのは、今から19年前の出来事である。当時勤務していた吉永歯科医院(熊本県)の吉永院長から、「世界にはオーラルデザインと言う凄い技工集団がいて、メンバーは世界に40数名しかおらんぞ」と言う形で私の耳に入ってきた。その当時、保険のクラウン・ブリッジ、デンチャーの技工作業をしていた私にとって「雲の上の技工集団」といった思いであった。
●いざ出発
私は現在米国ロスアンゼルスでラボを開業しており、今回はロスアンゼルスからスペインのマドリッドに行くことになった。スペインまでの飛行時間は、1回の乗り換えを含め14時間程度であった。日本へ里帰りの際は10時間ほどなので、とても長く感じた。
マドリッドに着いた私は、バスト地下鉄を利用し会場近くのホテルに向かった。観光スポットとして、マドリッド王宮やドン・キホーテ像のあるスペイン広場などで有名な町は、中世の面影を残す建築物、沢山の美しい像で囲まれとてもロマンチックで幻想的に感じた。今回のシンポジウムは、最初の16、17日の2日間がハンズオンコースで、後半の18、19日の2日間がシンポジウムとなった。ハンズオンコースは6人のオーラルデザインメンバーが行い、その中でも日本人として、Mr. Naoki Aiba、Mr. Luke Hasegawaの2人がコースを行った。私は今回はシンポジウムのみの参加になった。
●シンポジウム初日
会場前で、オーラルデザインメンバーのひとりでもある内海賢二氏にばったり再開した。内海氏と言えば「QDT」1998年1月号のMASTERPIECEで発表されていた頭蓋骨のサンプルに非常に魅力を感じ、コピーして車のダッシュボードに保管し、車で昼寝するときにいつも眺めていたのを今でも覚えている。
初日の会場では、午前中にMr. Willi Gellerが患者の協力のもと、プラチナホイルテクニックでのノンインペイシブのセラミックレストレーションをその場で行った。最終的にセメンティングまで行うというその企画は、「流石はMr. Geller」といわせるものであった。白金箔を模型に圧接する際、インスツルメントの先をラバーホイールで調節する行為には氏のこだわりが見えると同時に、CAD/CAMでは到底再現することのできない、最高の結果を予想できる氏の「ゲラーキャリブレーション」にも見えた。「Mr. Gellerは、前歯のワックスアップに丸1日費やすことがある」と聞いたことがあるが、氏の域に達しようともワックスアップ (=Oral Design) には時間をこれ程までにかけるのかと驚いたことがある。オーラルデザインという名の創設者でもあるが、私たちの仕事はすべてここから始まるような気がする。
また、この日最後のスピーカーであったMr. Luke Hasegawaは「Smile Design」と題し、患者の利き手が笑顔のバランスに影響する要因となりうることについて述べた。氏は同時に、夢にまでみたOral Designメンバーへの加入、さらにこのOral Design International Symposiumの舞台での発表が叶った喜びについても語り、それは1歳年下でもある私にとって貴重なメッセージに感じた。
この日の夜、ウェルカムパーティーが会場近くのホテルで盛大に行われた。ようこそスペインといった趣旨で、フラメンコの催しも行われた。そのフラメンコのダンサーが素晴らしく、飲んで騒いでいた参加者の注目はダンサーへと集まった。その時、ダンサーから私に「アナタも一緒に踊りましょう」と目で合図され、私も求められるまま、自然に体を委ねフラメンコを表現した。気がつけば、人生初のフラメンコを見よう見まねで踊っていたが、これが意外にウケて、他の参加者やオーラルデザインメンバーの方も一緒に踊りだし、酒とダンスで最高の夜となった。
●シンポジウム2日目
2日のトップバッターは日本人のMr. Jungo Endoで「How to create life like gingival porcelain with nature in balance」と題し、芸術的な歯肉付き歯冠補綴の臨床ケースを独自のサンプルを交えて紹介した。患者の過去、笑えない現状、心の病に真剣に向き合うことで、患者ひとりを歯科技工士として救うことの出来る可能性を伝えるメッセージは会場の参加者の目つきの変わるものだった。
45分のコーヒーブレイクを挟み、私が非常に楽しみにしていた一人、日本からのスピーカーMr. Tetsuro Kuboが、「study of abutment for esthetic restoration」と題し、長年臨床に取り入れている天然歯支台におけるクラウンのSシェイププロファイルの考えを基に、インプラントにおけるSシェイププロファイルの応用を紹介した(通訳はMr. Naoki Aiba)。海外では審美補綴における長期経過を紹介した発表は少なく感じるが、その臨床的ヒントとなる発表は会場を大いに惹きつけた。
また、午後の後半ではMr. Naoki Aibaが「Foil technique. Noninvasiva porcelain laminate veneers」と題し、ノンプレップポーセレンラミネートべニアのホイルテクニックを、ポーセレンの可能性、精度、色調再現など魅力的な写真を交えながら紹介した。理想的な結果を出すために理想的な作業環境をつくる姿勢には真のプロフェッショナルを感じた。
●終わりに
今回は30カ国以上から参加があり、世界のオーラルデザインメンバーに会うことができた。その中で英語を母国語としている参加者は多くなく、お互いに慣れない第二言語の英語を駆使してコミュニケーションを楽しんだ。そういう意味でも、このOral Design International Symposiumは非常に面白いものであった。もし「興味があるが海外に行くのはちょっと」という方でも、参加者のほとんどが海外からの同じ境遇の方々ばかりなので、ぜひお勧めしたい。最後に、いつも私をサポートして下さるラボの皆と、今回のシンポジウムに強く誘って頂いたMr. Jungo Endoに深く感謝申し上げる。